◇ なにがなし 胸の塞がる 思ひきぬ 枯野ひろごる 真昼なりけり ◇
2016年9月のブログ記事
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◇ 子を天に 捧げむとてや コフノトリ 尖塔に巣を 営みをりぬ ◇
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◇ 銃ならぬ カメラなれども 野の鳥は 声を潜めて 呼吸してをり ◇
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◇ 海女の子は 母の沈むを 喜ばず 浮かび出る母 朝日のごとし ◇
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◇ 草の上の 露を啄ばむ 野の鳥の くちばし上げて 飲むさまもよし ◇
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◇ 山峡の 水車健気に めぐりをり 人住まぬ里の 清き流れに ◇
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◇ うずくまる 蟹憐れみて 指やれば 人に倍する 力で応ふ ◇
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◇ あな千鳥 吾が被写体と なりて駆く 浜辺の四五歩 沖は百キロ ◇
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◇ さまざまの 苦しみなめて こし犬の 大方の事に 顔を上げざる ◇
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◇ いつならむ 吾が念願の 叶ふ日は 蜜柑花咲く 岬に立つ日 ◇
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◇ サルビアは なにゆゑかくも 赤く燃ゆ 寂ぶるばかりの この郊外に ◇
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◇ 曇天に 牡丹は白く かがやけり 雨としなれば 力いや増し ◇
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◇ 真昼間の 園に麒麟は 首伸ばす 梢の若葉 育ちくるまで ◇
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◇ 信仰は 約束信ずる 道にして 雁は今年も 空渡り来る ◇
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◇ 海原を 強く飛礫と して来たる つばくろは今 南国へ発つ ◇
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◇ 庭園の 大輪ダリア うなだれぬ 陽は強くして 陰は濃くして ◇
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◇ 公園の ベンチに残る 落書きは 固有名詞の 下にただ「好き」 ◇
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◇ 夏の海 波と戯る 子供らの 頭上鴎は 高低に舞ふ ◇
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◇ 田舎道 赤きパラソル たどたどし 思ひ屈する 帰郷なるらむ ◇
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◇ 雷鳴の しきるしじまに 身を沈め 天つ徴に 耳凝らすけふ ◇
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◇ 炎天の 町の通りを 進みゆく ここも亡き母 歩まする道 ◇
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◇ 変哲も なき街並に 独り立つ 大道芸人 目の和みをり ◇
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◇ 轟ける 車輪に近く 秋の草 虐げ多き 人生に似て ◇
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◇ 消防車 熱く深夜を 貫かむ 夢みる者も 夢みざる者も ◇
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◇ 絶え絶えに 明かり灯して ゆく蛍 幽けくも吾が いのちなりけり ◇
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◇ かたつむり ひとついのちに 耀かむ しぶく歩道に 光を曳きて ◇
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◇ 炎天の 街かたつむり 横断す 水乞ひゆけば 午後は夕立 ◇
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◇ 樹を植ゑむ 純粋種なる 樹を植ゑむ 根元にはただ いちゐと書きて ◇
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◇ 水打ちて しばしの涼を 愉しめり 人の命も かくなるものか ◇
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◇ 何気なく 摘みし一輪 山吹か 径に残して ゆきし人あり ◇
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◇ みづぐるま つねに過去へと まはりをり 一度くらゐは 未来へまはれ ◇
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◇ 戻らざる 時間を人は 費消せり 長ければそを 人生と呼び ◇
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◇ 山径を 修羅場となして 栗の毬 実を拾ひしは 人かけものか ◇
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◇ 車窓からの 白鷺どれも 項垂れて 一羽たりとも 首を上げざる ◇
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◇ 夏の海 波と戯る 子供らに 女神のごとき 白き灯台 ◇
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◇ 大沼の ほとりに鎮む 鳥影の たまさか揚がる 甲高きこゑ ◇
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◇ 悪霊を 棲まはせをれば その素振り 魔女めいてくる 巷の女 ◇
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◇ あたたかき 岡辺はありて 古里の 遠いとほい 雲の果てかな ◇
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◇ 落葉して しんと響けば 眠られず 夜こそ人に 救ひは来るか ◇
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◇ 天にゆく 道ほそぼそと 険しくも とにもかくにも いのちの泉 ◇
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◇ 葉の叢りに 青色を奪はれ 青蜜柑は 実つていく 実れば人に もぎ取られ いま空虚を ぶら下げている 秋風の中 ◇
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◇ ひさかたの 日はうらうらと 夏野道 * 黄のパラソルは 向日葵のごと ◇
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◇ 揉め事を 和にくるまむと 図りつつ 欺瞞の谷を 堕ちてゆくなり ◇
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◇ うつせみの 人の逢瀬の はかなさは みな老いてゆく 夕焼け小焼け ◇ ◇
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◇ 浮世では 恋よ愛よと 喚けども なくてならぬは いのちのもとゐ ◇
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◇ 初秋の 草原行けば バッタ追ふ 猫に遇ひけり 昔の猫に ◇
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◇ 父と娘 二人住まひの その父は 昨夜帰らず 探す朝明け ◇
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◇ 薄穂を 横抱きにして 帰還する 少女ありけり 荒野を抜けて ◇
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◇ ジャングルを 抜けて駆け行く あの少女 吾を慰むる 被写体として ◇
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◇ 種も異に 鳥は干潟に 来て遊ぶ 必ず満つる 潮待ちつつ ◇