南国

◇ 白日の 路上のカンナ しるければ 南国に来たる 心地してゆく ◇

飛来

◇ 飛来して 休みつつゆく 秋茜 美麗ならざる 凡夫の頭 ◇

山里の道

◇ 露に濡れ 生気おびたる 朝顔の 乙女ら歩む 山里の道 ◇

秋の風

◇ 雲分けて 草に吹き込む 秋の風 我らがぬるき 心にも沁む ◇

放ち鶏

◇ 嘴の 露払ひつつ 放ち鶏 何あさりゆく 草原深く ◇

枯野道

◇ 犬連れて 少女駆け行く 枯野道 酒乱の父は 昨夜帰らず ◇

岬の蜜柑

◇ 空と海ともに迫りて 蜜柑畑 たれに捧げむ黄金の実を ＊ 岬に黄金の蜜柑がすずなりになっている。 そこに小舟に乗って三匹の雄猿がやって来た。 彼らは岬に上陸し、蜜柑を残らずもぎ取り、小舟に積んで帰って行った。 金泥棒！ 蜜柑は慥かに金色に輝いていた。 それだからといって、金泥棒などと叫ぶのも憚ら... 続きをみる

萩の花

◇ 濃くもなく 淡くもなくに 萩の花 路傍に咲きて ひと足を止む ◇

ほほづき

◇ ほほづきに いのちのあれば 乙女子は 味もなけれど くはへてをりぬ ◇

雪

◇ アルプスの 峰の一つに 消え残る とこしへの雪 鹿が来て食む ◇

帆

◇ 真昼間の 海紺青に 照り映えて ヨットの真帆は 委ねてありぬ ◇

蝶

◇ 蝶ひとつ 焦げ極まれる 空を翔く 地上にはなほ 緑残れど ◇

風船

◇ 風船は 狭きまことを 知るゆゑか 人里離れ 山を越えゆく ◇

鴨

◇ 今着きて 翼をさむる 群鴨の 傲りは見えず 天翔けるとも ◇

銀杏落葉

◇ 銀杏落葉 敷き仰向けに 寝る少女 一分したら 起きて駆けだす ◇

パラソル

◇ ひさかたの 日はうらうらと 夏野道　　　　　　　　　　　　　　　　＊ 赤きパラソル 花と咲くらむ ◇

ノック

◇ 落葉の音 しんと響いて 眠られぬ 夜こそ人に 救ひのノック ◇

ほほづき

◇ ほほづきや 命あるごと 乙女子の 味もなけれど くはへをりけり ◇

その雀

◇ 雀くる 家はあれども そのときの その雀くる　　　　　　　　　＊ 家は少なし ◇

栗鼠

◇ 枝の栗鼠 橡の実齧る まなこには 秋の光の しづもりてをり ◇

隠れる鳥

◇ 山径を辿って行くと、一本の古木をあさっている鳥がいた。 いったい何をあさっているのだろう。 果物がなっているのでも、好物の虫がいるのでもないようだった。 果物なら色彩鮮やかな果実がぶらさがっていなければならないし、虫がいるには青い葉がなければならない。 変な鳥がいるものだ。男が不思議がっている... 続きをみる

栗の実

◇ 栗の実の雨のごとくに 降る夜に 実りの怖さ知りて眠れず ◇

木の実

◇ 山径を行けば 木の実の降りにけり 木の枝に栗鼠は鳴りを潜めて ◇　　　

鮎

◇ 古里に釣り上げし 魚手に残り 都会に住みて鮎を塩焼く ◇

露の瞳

◇ 幾千の露の瞳に 見つめられ 生きものすべて透明となる ◇　　　　　　　　　　

山百合

◇ 荒き野に 異香放てるひとところ 崩るるばかりの山百合なりき ◇　

枯野

◇ ひとところ枯野に 真日は弾けをり 日浴びに向ふけもの道見ゆ ◇ 　

鳶

◇ 時折に 鳶の落ちゆく茂き山　　　　　　　　　 獲物はありてうまし水はも ◇

啄木鳥

◇ 啄木鳥の 　放棄せる樹ぞうつろなる　　　　　　　 とよむばかりの秋風の中 ◇

水

◇ 水甕をつむりに 　かざし行く乙女　　　　　　　　　　　　 身振りはなべて水の重しに ◇

犬

◇ かうべ撫でし 犬たちまちにけだものと なりゆく見れば人も恐ろし ◇

燕去る

◇ 留守にして送らずなりぬ 燕かな 帰れず屋根に人待つ燕 ◇

明日に返す

◇ 伸べきたる夕日を波は 寄せつけず 明日に返す強き反照 ◇

帆色

◇ 湖に浮かぶ帆色の とりどりを ひとつに統ぶる秋の景観 ◇

蜩の声

◇ 山川を釣りのぼり行く わが影の 長々として蜩の声 ◇

線路

◇ 線路走る 夏野の尽くる あたりまで 最後は熱砂に 溶けて望洋 ◇

赤まんま２

◇ 赤まんま 喰へと旅人に 渡す赤子 喰はずにをれば 怨めし気に見る 　　＊muragonに投稿した拙句を改稿 ◇

蠅叩き

◇ 蠅叩き 幼子父の 顔叩く 父は渋面 それ見て してやったりと また叩く 　　＊muragonに投稿の拙句を改作 ◇

稲雀

◇ 案山子など ただの脅しと 稲雀 稲食ひ荒らすも 時に天の意志 ◇

蝶

◇ 暗き森飛び出しこの世へ 夏の蝶 この世にも闇あるとは知らず ◇

ひつじ何匹

◇ 雲の峰ひつじ何匹 抱へ持つ 嵐が来ても手放すなかれ ◇

扇風

◇ バス停に女の扇の 風を浴び 香水の香のスペシャルもつき ◇

空中遊泳

◇ 這ふ赤子そのまま少し 身が浮けば 猫も驚く空中遊泳 ◇

赤子

◇ 赤子這ふ宇宙掌中に 亀のごと 夢醒むるまで二年を要し ◇

夏木立

◇ 夏木立鳥吸はれゆき 静かなり 人も木陰にことばなく坐す 　　＊muragonに投稿の拙句を短歌に改作 ◇