korekarayukumitiのブログ

長きにわたり探してきた道は、天から降りてくる梯子を
一歩一歩上っていくことだった。

営業中の店

◇営業中の店


日覆いの中は暗く、
訝しいので、
入らず素通りした。


帰りも同じで、
さらに内部の闇が、
濃くなっていた。
光っているのは、
水を撒いたせいか。
そこに周りの何かが映り込んで、
血のように赤かった。

〈あれは血しぶきだ!〉

そんな声が彼の中でわだかまり

広がっていった


ほぼ一年ぶりにそこを訪れると、その店がなくなっていた。

暗闇がまさっていて、足がとどまり、中に入れなかった

あの営業中の店は、消えていた。老舗の蕎麦屋は影も形も

なくなっていた。

更地になっていて、粗く杭が打たれ、中は雑草に埋められていた。

移転先も、店がなくなった理由も、いっさい書かれていない。

そこに老舗の蕎麦屋があったことさえ、不思議なくらいだ。

生い茂る雑草だけが、それを知っているというわけだ。

知るものがもうひとついた。黒猫である。雑草のなかに蹲って

鈍く金色の目を光らせ、こちらを見ていたのである。

見たことがあるような、ないような、一匹の黒猫。先方も

こちらを、そんな目で見ていた。

一年前の彼が、訝しく感じて中へ入れなかった、そんな思いを

どこかに抱えてこんだ目である。

彼はその場所を即引き上げた。長くいると、この猫にとどまらず、

周辺から胡散臭く思われ、よけい憂鬱に追い込まれ、何かと

生きる支障になりそうだった。





  ◇

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