木陰

◇ 駅前の 広場のベンチ 木陰あれば 人も野鳥も 身を寄せに来る ◇

燃える街

◇ この季節 吾人に都市は 砂漠にて オアシス探す マクド　ロッテリア ◇

羽音

◇ 農道を 羽音もつよく 虻が行く ガソリンのごと 吸ひ血で満たし ◇

武装

◇ クーラーと アイスコーヒーで 武装して 炎天下ゆく 吾は旅人 ◇

田園

◇ 田園に 白雲浮けば その下に 影佇みて 人のごとしも ◇

朝の挨拶

◇ 朝ごとに チユンと挨拶 する雀 人に返事の 無くもふくれず ◇

不意

◇ うちつづく 闇の底より 不意に出づ あれは蛍か 吾が目には星 ◇

線香花火

◇ さくらばな 線香花火と 蘇る 庭に屈んだ 少女の手より ◇

朝の雀

◇ 大方は 計画倒れ するなかで 慥かなものは 朝くる雀 ◇

都市に住む

◇ 都市に住む 男一匹 涼に飢ゑ 渓流釣りは 支度にて果つ ◇

清水

◇ 夏の日に 清水もとめて 山に入る 泉はなくて 夕立に逢ふ ◇

葉っぱ

◇ フラフラと 葉っぱ一枚 来るやうに いつもの野良か 近所の猫か ◇

世の電車

◇ 押し行くか 押されて行くか 世の定め 瞬時に決まり そのままにゆく ◇

夜の電車

◇ 暗闇を 出てくる電車 三つ蛍 十個並べば 十両連結 ◇

通勤電車

◇ 人の重さ あづかり行くか 通勤の 栄達はなくも 地位は安泰 ◇

火急の時

◇ まどろみの 中に夢見て 起こさるる 火急の時は 豆腐売りの声 ◇

黒靴

◇ 黒靴を 親とし見てや 黒蟻の 這ひ登りかつ 慕ひ追ひ来る ◇

蛍

◇ 暗き家に 蛍のひとつ 光りをれば 猫も驚き その目も光る ◇ ◇

真昼時

◇ 梅雨去りて かんかん照りの 真昼時 降る陰ばかり 慕ひつつ行く ◇

初燕

◇ 乙女子の 岬に立つに 初燕 挨拶がてに やはらかき風 ◇

白蝶

◇ 木下闇 ぬけて日の下 白蝶は 荒き悪夢の 中にをるらむ ◇

逢瀬

◇ うつせみの 人の逢瀬の はかなきは みな老いてゆく 蜩のこゑ ◇

ブルドツク

◇ ブルドツク 連れて散歩の 女医に会ふ 病に向かふ 闘志ほの見ゆ ◇

各駅停車

◇ 新樹など 一本もなし 新幹線 各駅停車の 薫り懐かし ◇

昼顔

◇ 昼顔の とある安心 吾のもの 変哲もなき 駅に降り立ち ◇

神輿

◇ 人生の 恨みつらみを 神輿に担ぎ 捨てに行く子ら 大人の遣ひ ◇

競馬

◇ 暑き日や 競馬新聞 手に取りて 電車に乗れば どの顔も馬 ◇

銀杏若葉

◇ 銀杏若葉 嵐にもがれ 道に敷かる まだ青き葉の 踏むに忍ばず ◇

筍

◇ 地を割りて 突如生え来る 筍を 子雀訝り 首傾げ見る ◇

夏野２

◇ 夏野には 白樺一本 立ちてをり そこはかとなく 乳の薫りす ◇

ミヤマガラス

◇ 夏の夜や ミヤマガラスの 啼きにけり 夜ぢゆう啼きて 朝ふとやみぬ ◇

逍遥カモメ

◇ 遠く近く 真夏の海に 帆の浮きて 逍遥カモメ 視野を離れず ◇

青嵐

◇ 電車降り 森をめざせば 青嵐 目の当たりとす 洗ひ髪かな ◇

夏の雲

◇ 夏の雲 長閑に浮けば 憧憬は ますます遠く 離れ去りゆく ◇

咬まれて泣きぬ

◇ 本物か ぬひぐるみかと 思案して そつと手を出し 咬まれて 泣きぬ ◇ その赤子 心の傷は 深くして 閉ざす心を 知るものぞなき ◇

ピアノ

◇ 風鈴の 音色のやうに 鳴りにけり Ｐ子のピアノ Ｓに優しく ◇

初鰹

◇ 初鰹 線しるくして 瑞々し 魚の解体 吾にむづかし ◇

子蟹

◇ 七月の 海より子蟹 持ち帰る 月夜の床を 忙しなく這ふ ◇

蜜柑花

◇ 蜜柑花 香るまだ見ぬ 果を夢見 蜜柑船ゆく 真青の海を ◇

途上

◇ 一口に 天といへども 遠大で 生涯を賭し なほ途上なり ◇

初夏

◇ 蝉は啼く 初夏の宣言するごとし 公園口の 大き欅で ◇

浴衣

◇ 宿浴衣 同じ浴衣の ひとに逢ふ 孤独癒やしに 来たこの町で ◇

青嵐

◇ 不埒など 木つ端微塵に 青嵐 木の葉も草も 木切れも砂利も ◇

踊る輪

◇ 踊る輪に 胸露はなる 女子生徒 生徒補導の 教師たぢろぐ ◇

森の泉

◇ 森の奥 泉の湧くと 聴きしより 吾が落ち着きの 無さは深まる ◇

白牡丹

◇ 白牡丹 白波の上 行くごとし 実感乏しく 霞みにかすみ ◇

スコール

◇ スコールや 雨中行進 する蟻に 世界の不幸 難民を見る ◇

野兎２

◇ 雪色の 野兎いまや 枯葉色 緑の草原 風きりて跳ぶ ◇

野兎

◇ 兎跳ぶ 草原色には 染められず それでも目立たぬ 枯葉色して ◇

夕立

◇ 夕立や 右往左往の 蟻の群れ 都市の広場の 拡大写真 ◇