korekarayukumitiのブログ

長きにわたり探してきた道は、天から降りてくる梯子を
一歩一歩上っていくことだった。

2016年7月のブログ記事

  • 夜の港

    ◇ 夜の港に停泊するクレーズ船の海面は ずっと深くて はるか船底のほうで細波が揺れ動いているばかりだ その中にかすかに灯の揺曳しているのが 港の灯の反映なのか 蛍の灯であるのか 判別は難しい それを見極めようとして 甲板から身を乗り出し 船底のほうを覗きこんでいる男がいる 彼は随分な難事業に取りつ... 続きをみる

  • 夏馬

    ◇ 夏馬が木洩れ日を 蹴散らして 走っている 馬体にも 陽と陰が跳梁して 四囲の目を 落ちつかせない 馬は陽と影の綾なす 浮世のくさぐさは とうに熟知しており 憂い煩悶は深くとも それを直に表の風にさらすことはない むしろ屈折して潜在し そんな内面を反映して 馬体はほっそりと 引き締まって美形 夏... 続きをみる

  • ミリンと美凜

    ◇ 少女の部屋に吊るした 風鈴は 夜店で買ってきた 掌に収まるほどの 小さな鈴だった 少女はその風鈴を ひとりだけにしておくのは 淋しいだろうと ポケットに入れて 持ち歩くようになった 実際は 風鈴が淋しいというより 少女のほうが 淋しかったのだ ポケットに入れられた風鈴は 部屋に吊るされた風鈴の... 続きをみる

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  • 蛙のCD

    散歩をしていて、小川の土手に出ると、雨蛙が四つん這いになって、 何かしきりに呟いていた。 「何をしているんだ」  と私は訊いた。 「雨が降るように頼んでいたんだ。こう暑いとたまらないからね」  と雨蛙は言って、いけないことだったかな、という顔をして、私を見上げた。 「雨蛙という名前があるんだから、... 続きをみる

  • ふくろう

    ◇ 土壁の家に 一羽のふくろうが 坐していた 明かりがないから 目だけを 力いっぱい 光らせて ◇

  • 蜜柑

    ◇ 蜜柑には 未完のひびき ありてよし 遠くの人に 送る恋文 ◇

  • 虹を跳ぶ少女

    ◇ ビルに囲まれた 小さな空き地の片隅で いつも縄跳びをしている 少女がいた ある雨上がりの午後 美しい虹がかかって 少女は虹の上を下をと 飛んだり潜ったりして 気色ばんでいたが あまりに激しく動き過ぎたのだろう 疲れたらしく石に腰かけて憩んでいた それがどのくらいの間であったのか 次に私が見たと... 続きをみる

  • メルヘン

    ◇ アヒルが 十羽の鶴を従へて 飛んでゐた 短夜の 儚くも平和な 夢であった ◇

  • 鬼灯

    ◇ 青い鬼灯を ひとつ銜えて 故郷を出た それきり故郷には 帰らなかった 今都会に住んで 鳴くのは 故郷の蝉 故郷の蛙 ◇

  • 出立

    ◇ 梅雨が明けると 人はそれぞれの目標に向かって 動きはじめた 画家はキャンバスを携え 写真家はカメラを手に 登山家は寝袋とピッケルを持ち 各々の冒険へと出て行った このところ山でクマに襲われる事故が相次いでいる 私の知る限り近時五人が命を落としている その仇討に一人のハンターが山に入った しかし... 続きをみる

  • ◇ 青春というには せつなさは似ていても 淡く 絶望と呼ぶには 暗く陰湿に過ぎ ぼくの胸中はもっと 別な感情で占められていた 列車はただ 漠然とした 救いを求めて 加速していた 夜明けへ 希望のない 夜明けへと 加速していた ◇

  • アヒルの親子

    ◇ 靑山河 アヒルの親子 引っ越しす ヨチヨチ 小さな池から 大きな池へ 遠く青山河 ヨチヨチ ◇

  • 木槌

    ◇ 彼は昨日から、頭の中で何かが鳴いているようでならない。 鳴いているとすれば、蝉の声ということになるが、 もうこんなに蝉が、溢れるほどになっているのだろうか。 まだ梅雨が明けたばかりで、夏休みにも入っていないのだ。 一方蝉でないとすれば、冷蔵庫とかクーラーの、 電気の接続系統に異常があるのだろう... 続きをみる

  • ◇ 森の奥深くから 日の煌めく明るい世界に 逃れ出た蝶がある 蝶は光の中を 目を血走らせて飛び回っていたが ふと日に厭きたのか 蝶は再び森に戻った 森に逃げ帰ったのは 一つの帰結であり 他に理由はなかった 蝶は今 森の木洩れ日の 淡くゆきわたる中を 影絵のようになって 静かに舞っている 再び問う ... 続きをみる

  • 奇跡

    ◇ 自堕落なキャベツが あるとき 堅く結球した 奇跡だ 奇跡が起こった 渓流で 鯰が跳ね上がった ◇

  • 鮎解禁

    ◇ 鮎解禁で 村では半鐘が打ち鳴らされている 鮎に注意しているのだろうか 釣り人が来るから 気を付けるように 屋台が出ているところを見ると 村を挙げての祭り気分に見えなくもない 早くも母鮎を釣られた子鮎が 泣き腫らして母を探し回っている 釣りの醍醐味は分ったから 魚を川に返してやろうと そんな優し... 続きをみる

  • 散歩道

    ◇ 散歩道 亡き妹と 手をつなぎ 途中いろいろな 動物や虫や食べ物が出てきて それはそれは愉しい時間だ 最後は天国の入口で 別れる 「またね」 と妹は手を振って 駈けていく ◇

  • 滴り

    ◇ いざ行かむ 汗よりも 高貴な滴り 湧く森へ 鬱蒼とした森が 冷気に満ちているのは そんな滴りが あるからにちがいない ピアノの音色のように 小石を伝う せせらぎの音もしている ◇

  • ◇ 鮎釣りに行った息子が 若い娘の鮎を連れて帰った と酒場で男が話していた それで俺はカカアに追い出されて ココよ とその男がぼやいている 傍らで聞いていた 酒場のマスターが苦笑い ◇

  • 教室

    ◇ 今日は楽しい遠足よ さあみんな おててつないで 行きましょう あの白い雲の覗いた ところまで 雨蛙が鳴いている 蛙さん あんまり鳴かないで 雨が降ったら困るから さあ 帰りはどうなったでしょう と先生が言った パパがお車で迎えに来ました と一人の女の子が言った モグラになって 土にもぐりました... 続きをみる

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  • 雲の峰

    ◇ 人の地平には 不可解なものがある その一つが雲の峰だ 白く美しい殿堂みたいに耀き いかにも天国に連れて行くぞ というような顔をしながら 二三時間後には 真っ黒な雲の帯がのたうち回り 空一面を闇に染めあげ ほら 見たか とばかりに 地上に瀧のような雨を降らせるのだ ◇ ◇

  • 北国の海岸線

    ◇ この季節北国の海岸線を行くと 浜茄子が棘のある枝を揺らしている 紅い五弁花は美しいけれど 棘が怖くて 手に取る気はしない 厳しい風土の中 砂をかぶって 屈強に棘のある身を揺すっている 野生にして野性の 美しい花 浜茄子 ◇ ◇未成 ハマナスは 未成なる実を 碧空に 海も青ければ 熟す間はなし ◇

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  • 少女の歌

    ◇ 風鈴や 少女の歌に 目覚めけり ◇

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  • 音色

    ◇ ひとつの音色に 目覚めて をちこちの風鈴が いつせいに 鳴りだした しかし過敏な風鈴は こんどは気分を害したのか いつせいに 黙つてしまつた ◇

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  • 西瓜割り

    ◇ 遊びとは言え あれは無残な遊びだ 頭の手術をした身には とても挑戦する気にはなれない あれを海辺の遊戯として考案したのは おそらく年端のいかない 子供だったのだろう 子供よ 早く大人になれ ◇

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  • 赤い自転車

    ◇ キイーッと 赤い自転車が停まって 郵便配達が門を入って来る ドキドキ 鼓動が激しく拍ち 息ができなくなる 一瞬の間 こんな時のために 箱庭をつくっておいて良かったよ 郵便配達が入ったのは 箱庭の門だった ◇

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  • 箱庭

    ◇ 箱庭をつくって ベランダに置くと 現実の庭と 箱庭の庭が 一つの青空を 共有した ◇

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  • 浜茄子

    ◇ 浜茄子の咲く浜辺の 遥かかなたの水平線には 次々と船が生まれては 静かに音もなく 消えていく この静止画像にして 動画の世界 今も新しい船体が 白く耀きながら生まれてくる そして何分か後には 確実に消えている 消えてまた生まれる 白く耀く船、船、船 ……… 鳥たちのように しばらく波間に漂い ... 続きをみる

  • 子蟹

    ◇ 今年の海の収穫は 子蟹一匹 その子蟹が 蟹缶の上で 母を出せと 鋏をもたげる ◇

  • 古郷

    ◇ わが故郷は 寂れて人も減り 昨年の夏祭りには 猫や犬まで 踊りの輪に入っていた よく見ると 狸もいた ◇

  • 崇高

    ◇ 厭はずに 人の汚れを 舐める猫 その崇高を 吾は愛する ◇

  • 金魚

    ◇ 哀しさが 金魚の色にあると わかった日 金魚を除かず 数を増やした ◇

  • 風鈴

    ◇ 一年ぶりに物置から出され 縁側に吊るされた風鈴が 喧しく鳴っている やや風の強いこともあるが 永くしまわれていて 淋しさもあったのだろう 風鈴が鳴る度に 金魚の尾が水を打つ ◇

  • 再会

    ◇ こんど逢ふときは 乙女の赤い林檎だよ さう言ひ含めて 青年は 青い林檎の 袋かけをする ◇

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  • 香水

    ◇ 日曜日の朝 娘が香水を遣うと 猫が胡乱な目をして 立ち騒ぐ 猫に同調して 父が新聞越しに きつい目をよこす ◇

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  • 純粋

    ◇ あまりにも いつも書いている はちゃめちゃなポエムとは 違うので びっくり 二度びっくり これが純粋の 秘訣? どうもそのよう そうとしか思えない ◇

  • 風まかせ

    ◇ 風鈴の 修理などなし 風まかせ 風に任せて 鳴るばかり そもそも 風鈴の修理屋なんて 存在しない 風鈴を売る店はあっても 「風鈴修理します」 なんて看板はみたことがない もしいたとしたら よほどの ディレッタントだ ◇

  • 撒水

    ◇ 水を打つ 駅前広場に 鳩降りて 頸傾げをれば 他の鳩も来る ◇ 撒水車 通る街路に 虹立ちて 虹を潜りに 鳥の舞ひ降る ◇

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  • 日傘

    ◇ カンカン照りの 昼下がりの径を 日傘を差し 子犬を連れた婦人が通る 子犬はロープを張ったり緩めたりしないで きちんと日傘の陰の下に 収まっている 日頃の散歩ならロープを張って 折々の風物に嗅ぎ寄って行き 「シロちゃん そんなところで道草しないの」 などとお小言を貰って ロープを手繰られるところ... 続きをみる

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  • 買い物

    ◇ 麓の店に買い物に行った少女が 日の暮れかかる山道を帰って来る 額には蛍が貼りついて 三つ目の少女が 山道を急いで行くようだ 少女は明日が遠足で 稲荷寿しにする油揚げを 買いに行っての帰りだった 狐は油揚げが欲しくて 少女を待ち構えていたが 少女の三つ目が怖くて 傍に近づいて行けなかった 少女は... 続きをみる

  • 茄子と水

    ◇ 茄子と水の間柄は 不思議な関係性の上に成立している 性格はまるで違って いつも背き合っている 茄子を水の中へ押し込んでやると 強く逆らってきて ぼしゃんとか ばしゃんとか 大仰に騒ぎ立てて 水面に浮上するだろう 「何すんのよ!」 と茄子は咬み付く勢いだ 「別に」 と水は澄ましこんで 「俺は何も... 続きをみる

  • 噴水

     ◇ 噴水は 高く上昇して 花開く 不思議な花だ 大都市の ビル群の中でも 水がある限り 枯れることはない  ◇